院長だより

2020年6月



令和2年4月から公立野辺地病院の院長を拝命した外科の小堀宏康です。
2011年3月に東日本大震災が起こりましたが、その年の5月に青森市民病院より当院へ赴任し、今年で9年目となります。

 皆様ご存じの通り、公立野辺地病院は現在、窮地に立たされています。施設の老朽化、耐震面の危険性、使用している機械の老朽化(CTや超音波診断装置、MRIなどの医療機器から院内の電話回線に至るまで)、医師確保の問題、債務(30年前に建設した建物の返済をまだしています)、経営状況の急速な悪化、自治体の財政支援の困難など問題が山積しています。
経営状態が厳しくなった理由としてはいろいろありますが、

 1)診療報酬の(全体としての)連続マイナス改定

 2)2019年10月からの消費税の増税(8%→10%)

 3)医師臨床研修制度により医局制度が機能しなくなったり、医師の偏在化(人口が多い都市に医師が集まり、過疎地には医師が不足する)による医師の需給バランスが崩れたこと

 4)夜勤の看護配置基準が厳しくなり、看護師が不足していること

 5)医療の質の確保、患者ニーズの多様化への対応などのため、以前よりさまざまな職種の医療従事者が増加し人件費が増加したこと

 6)医療訴訟リスクの増大

 7)公立病院の独立採算制の流れ等々

このような問題はこの野辺地病院だけでは無く、特に僻地にある公立や自治体病院でも経営の行き詰まりの原因となっています。
 このためには、この地域のニーズにあった病院の在り方を目指すことによって、患者さんに安心して利用してもらえる魅力的な病院を目指したいと思っております。経営を健全化し、この地区に必要な医療を提供・維持することが目標です。そのためには、住民の皆さんも是非公立野辺地病院を利用して頂き、病院の活性化に貢献して頂きたいと願っております。

 さて、今年に入ってからの話題といえば、「新型コロナウイルス」です。今まで当たり前と思っていた日常生活ができなくなり、経済的にも精神的にも困った状態が続いており、とにかく我慢の日々を過ごされていることでしょう。

 世界中で感染症が流行している状態のことを「パンデミック」と言います。実はパンデミックは今回が人類史上初ではありません。14世紀に起きたペストの大流行では、当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡しました。1918年から1920年にはスペイン風邪が大流行し、世界中で5億人が感染し(これは当時の世界人口の4分の1程度)、死者数は5000万人から1億人と推計されています。これらのパンデミックは自然感染から回復した人たちが免疫を獲得したことで、集団に長期的な免疫がつき、人から人へのウイルス感染が制御されたことにより、終息したものと考えられています。
 記憶に新しいところでは、2002年重症急性呼吸器症候群(SARS)がコロナウイルス(SARS-CoV)によって起こりました。実は、このときのコロナウイルスは今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)より病原性が遙かに強く、しかも感染するとすぐに発症し、ほぼ全員が発熱や呼吸困難といった症状を示しました。ただし、症状が重くなるまでは他の人にウイルスをうつす事がないという特徴があり、患者を隔離して封じ込め作戦をしたため、感染者数8096名、死者数774名で終息しました。

 今回の新型コロナウイルスの特徴は、最初の症状が一般的な風邪の症状と区別がつかないことです。
多くの人は感染しても無症状あるいは症状がでても軽い風邪程度の症状が1週間程度続き、80%の人はそのまま治ってしまいます。
 しかし、残りの20%の人は軽い症状がでて1週間ぐらい後に急に重症化、さらに5%の人は10日目以降に更に悪化し、高度な治療をおこなっても3%弱の人が死亡します。
また、60歳以上の高齢者、基礎疾患のあるひと(心血管疾患、糖尿病、悪性腫瘍、慢性呼吸器疾患など)は致死率が高いようです。
 つまり、同じウイルスなのにもかかわらず、多くの人は軽症で終わってしまうのに、一部の患者さんには牙をむいて襲いかかる二面性をもった悪質なウイルスなのです。
 しかも軽微な症状がでる2日前から、他の人にうつす可能性があり、無症状の人でも感染を拡げている可能性があります。そこで、日本政府は緊急事態宣言して人と人の接触の機会をなるべく減らし、感染の拡がりを防ぐことにしました。

つまり「三つの密」1.密閉空間 2.密集場所 3.密接場面を避けることです。
「集・近・閉(しゅうきんぺい)を避けよう」というのもあります。

 1.集=人が集まる場所を避けよ。

 2.近=近距離での会話や交流を避けよ。

 3.閉=閉鎖、又は密閉されている、換気の悪い環境は避けよ。

どこぞの国家主席みたいで、語呂がよく、かえって覚えやすいかも!

ノーベル賞を受賞した山中伸弥氏も、
「緊急事態宣言中の皆様の頑張りで大都市では感染者数は減少し、感染者数が同定されない地域も増えています。しかし新型コロナウイルスへの対策はこれからが本番です。引き続き人と人との接触を減らす努力が必要です。私たちが一致団結して正しい行動を粘り強く続ければ、ウイルスとの共存が可能となります。自分を、周囲の大切な人を、そして社会を守りましょう!」
と言っています。

 新型コロナウイルスが終息できるのは、ワクチンができ、治療薬ができて全世界に行き渡ったあとです。それまでは気を許さずに、みんなでこの危機を乗り越えましょう。

公立野辺地病院 院長 小堀 宏康